2006年1月8日 読書
 「恋」はひょんなことから手にすることになった。その経緯(いきさつ)は複雑なので、ここに記すことはやめる。その代わり、この本を読んで覚えておかなければいけない事を記そうと思う。
 小池真理子は「恋」で1996年に直木賞を受賞している。不思議なもので、わたし自身、小説というものを書くようになって常に、文章を綴る作家の心理というものを意識しながら本を読むようになった。そういう意味で、一番興味深かったのが、小池真理子の「文庫本のあとがきに代えて」である。

 その中の一部を抜粋したい。わたし自身のために。

 1994年12月の、風の強い寒い晩だった。何という理由もなく、私は寝室のベッドに仰向けになり、CDでバッハの「マタイ受難曲」を聴いていた。何故、その曲を選んだのか、よく覚えていない。受難、という言葉に自分自身を重ね合わせたつもりだったのかもしれない。
 その時である。何がきっかけだったのかわからない。それは突然襲いかかってきた嵐のように私の脳髄を突き抜けていった。ほぼ一瞬にして、あたかもドミノゲームのごとく、パタパタパタッと、見事なまでに完璧に物語の構想、テーマ、登場人物の造形が頭の中でまとまった。
 私は飛び起き、書きとめるものを探してあたりを見回した。ボールペンはあったが紙がなかった。狂女のように髪を振り乱して書斎に走った。
 レポート用紙を手に再び寝室に戻り、ベッドにうつ伏せになりながら、今しがた頭の中を駆け抜けていったものを走り書きした。レポート用紙十五、六枚は使ったと思う。力が入りすぎてボールペンの先が紙に穴を開けた。走り書きではない、殴り書きだった。
 神が降りた、とその時、思った。暗闇が薄れ、光が見えてきた。あとはその光に向かっていけばいいのだった。

ISBN:4101440166 文庫 小池 真理子 新潮社 2002/12 ¥740

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